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はじめに:建設業の未来を支える戦略的資金調達という選択肢

建設業を営む経営者は、常に資金繰りという課題と向き合っています。資材費や人件費といった高額な先行支出に加え、工事代金の回収には数ヶ月を要することが一般的です。入金までの期間が長いため、日々のキャッシュフローは慢性的に圧迫され、経営に大きな負担を与えます。結果として、成長の機会を逃す要因にもなりかねません。

多くの経営者は、目先の支払いに対応するため即時性の高い資金調達を模索します。しかし、企業が持続的に成長し競争力を強化するには、計画的な投資と経営基盤の強化が欠かせません。そこで注目すべきなのが、「補助金」と「助成金」という返済不要の資金です。

これらは単なる資金援助ではなく、未来への投資を後押しする戦略的な制度です。たとえば、デジタル化(DX)による業務効率化、生産性向上のための最新重機導入、深刻化する人手不足に対応する人材育成などが対象になります。融資とは異なり負債を増やさずに自己資本を強化できるため、より強固な経営基盤を築くことが可能です。

本記事では、建設業者が活用できる主要な補助金・助成金制度を網羅的に解説します。制度の仕組みや違い、具体的な活用事例、採択を勝ち取るための申請プロセスまでを詳しく紹介します。このガイドを羅針盤として、戦略的な資金調達の第一歩を踏み出しましょう。

補助金と助成金、その本質的な違いを理解する

「補助金」と「助成金」は、いずれも国や自治体から提供される返済不要の資金です。そのため混同されやすいですが、目的や財源、獲得までのプロセスは大きく異なります。この違いを正しく理解することが、自社に適した制度を選び、効果的に活用するための第一歩です。

補助金:未来への投資計画を競う「コンペティション」

補助金は、経済産業省や地方自治体が管轄し、国の政策目標(例:中小企業の生産性向上、DX推進、環境対策、事業再構築など)を達成するために提供される制度です。

最大の特徴は「競争性」にあります。公募期間内に提出された事業計画のうち、政策目的に沿い、かつ内容が優れていると評価されたものだけが採択されます。つまり、申請すれば必ず受け取れるわけではなく、他社との競争に勝ち抜く必要があるという点が重要です。

審査員を納得させるには、説得力のある事業計画書を作成しなければなりません。また、補助金は基本的に「これから行う取り組み」が対象です。すでに完了している投資や購入済みの設備は対象外となるため、事前の計画と早めの準備が不可欠です。

助成金:労働環境改善への取り組みに対する「報酬」

助成金は、主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定や労働環境の改善を目的として支給されます。たとえば、従業員の新規採用、非正規社員の正社員化、スキルアップ研修の実施、育児や介護休業制度の導入などが対象となります。

補助金との最大の違いは「競争性がない」ことです。定められた要件を満たし、適切な手続きを行えば原則として支給されます。これは、企業が国の方針に沿った取り組みを実施したことに対する「報酬」という性格が強いためです。

申請のタイミングは制度によって異なり、取り組み実施前に計画届を提出する場合もあれば、実施後に申請できるものもあります。

どちらを選ぶべきかは企業の課題次第

補助金と助成金、どちらを活用するべきかは、自社が直面している最も重要な課題によって決まります。

例えば、古い重機しかなく生産性が低いことが課題で、公共工事の入札で競合に勝てない場合は補助金が有効です。「ものづくり補助金」を活用して最新のICT建機を導入し、競争力を高めるのが解決策となります。

一方、慢性的な人手不足で受注を断らざるを得ない状況なら、助成金を優先すべきです。「人材確保等支援助成金」や「人材開発支援助成金」を活用し、魅力的な研修制度を整備して採用力を強化します。

このように、自社の課題が「事業・サービスの革新」にあるのか、「人材・組織の強化」にあるのかを見極めることで、効果的な制度選定が可能になります。

補助金と助成金の比較表

比較項目補助金助成金
主な管轄省庁経済産業省、地方自治体厚生労働省
主な目的産業振興、DX推進など国の政策目標の達成雇用安定、労働環境改善
採択方式競争採択(優れた事業計画のみ採択)要件充足(要件を満たせば原則支給)
重要な書類事業計画書労働者名簿、賃金台帳など雇用関連書類
最適な活用シーン未来への投資(設備導入、新サービス開発など)人材・組織の強化(採用、育成、職場改善など)

成長を加速させる主要補助金ガイド【建設業編】

ここでは、建設業の経営者が特に注目すべき主要な補助金制度を、目的別に詳しく解説します。
これらの制度は、生産性向上や業務効率化、新たな市場開拓を実現するための強力な資金源となります。

主要補助金一覧

補助金名最大補助額(目安)補助率(目安)建設業での主な活用シーン
IT導入補助金450万円1/2 ~ 4/5会計・労務管理ソフト、施工管理システム、積算ソフト導入
ものづくり補助金4,000万円1/2 ~ 2/3ICT建機、3Dレーザースキャナ、ドローン等の設備投資
小規模事業者持続化補助金250万円2/3ホームページ制作、チラシ制作、展示会出展
中小企業省力化投資補助金1,500万円1/2IoT・ロボット導入による省力化投資

デジタル化を推進する【IT導入補助金】

制度の目的
中小企業や小規模事業者が、自社の課題に合ったITツールを導入する際の費用を補助する制度です。
業務効率化や売上アップを支援することを目的としています。

補助額・補助率
通常枠では最大450万円、補助率は原則1/2です。
「インボイス対応枠」では、小規模事業者に限り最大4/5の補助率が適用される場合があります。

対象経費

  • ソフトウェア購入費
  • クラウドサービス利用料(最大2年分)
  • 導入関連費用
    ※通常はハードウェアは対象外ですが、インボイス枠では会計ソフトと同時導入するPCやレジも対象になります。

建設業での活用例

  • バックオフィス効率化:freeeやマネーフォワード クラウドなどを導入して請求書発行や経理処理を自動化
  • 勤怠管理・給与計算:クラウド型システムで労務管理を効率化
  • 積算ソフト導入:公共工事の入札に不可欠な積算業務の精度向上
  • 施工管理システム:現場と事務所間で工程管理や図面共有をスムーズ化

成功事例
ある建設会社は、積算システムを導入して入札参加件数を大幅に増加させ、元請け案件の受注率を向上させました。
また別の企業では、勤怠管理ソフト導入により残業時間を1/3に削減しました。

生産性向上と大型設備投資に【ものづくり補助金】

制度の目的
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。
革新的な製品やサービスの開発、または生産プロセス改善のための設備投資を支援します。

補助額・補助率
最大で4,000万円。補助率は中小企業が1/2、小規模事業者は2/3です。

対象経費

  • 機械装置・システム構築費
  • 専門家経費
  • クラウドサービス利用費

建設業での活用例

  • ICT建機導入:GNSSを活用したブルドーザーや油圧ショベルを導入し、施工精度を高める
  • 3Dレーザースキャナやドローン活用:測量や進捗管理を効率化・省人化
  • 新工法導入:差別化を図る特殊機械を導入
  • リサイクル設備:建設廃材を再利用するプラント設備への投資

成功事例

  • ICTブルドーザー導入による施工精度向上
  • 木くず処理効率化のための特殊アタッチメント導入
  • 溶接自動化ロボット導入で女性や高齢者雇用を促進

販路拡大と集客力強化に【小規模事業者持続化補助金】

制度の目的
小規模事業者が商工会・商工会議所と連携し、販路開拓や生産性向上を目指すための取り組みにかかる費用を補助します。
建設業では「常時使用する従業員20人以下」の事業者が対象です。

補助額・補助率
通常枠は最大50万円ですが、賃上げやインボイス対応など一定条件を満たすと最大250万円まで引き上げられます。補助率は原則2/3です。

対象経費

  • ホームページ制作費
  • 広報費(チラシ・パンフレットなど)
  • 展示会出展費

活用例

  • 施工実績を掲載したホームページを制作し問い合わせ増加を図る
  • 地域密着型の広告活動を強化する
    ※Web制作のみでの申請は不可。必ず他の取り組みと組み合わせる必要があります。

その他の注目補助金

  • 中小企業省力化投資補助金
    IoTやロボット導入で省力化を図る制度。自動測量機器や遠隔監視システムなどが対象。
  • 事業承継・M&A補助金
    事業承継やM&Aに関わる専門家費用、設備投資費用を支援。
  • 建設市場整備推進事業費補助金
    建設業者が災害対応力を強化するための補助金。ドローンやウェアラブルカメラ導入などに活用。

組織を強くする必須助成金ガイド【人材編】

建設業界が直面する深刻な課題の一つが、若年層の入職者減少と就業者の高齢化による慢性的な人手不足です。
厚生労働省はこうした状況に対応するため、企業の「人」への投資を支援する多様な助成金制度を用意しています。
これらを活用することで、採用力を高めるだけでなく、長期的な人材戦略を強化することが可能です。

主要助成金一覧

助成金名目的主な支給内容(目安)対象となる従業員・取り組み
人材確保等支援助成金魅力ある職場づくりで人材を定着制度導入・実施にかかった経費の一部若年者・女性の入職促進、研修制度整備
トライアル雇用助成金未経験者等の常用雇用促進月額4万円 × 最長3ヶ月職業経験が少ない求職者の試行雇用
キャリアアップ助成金非正規雇用者の処遇改善最大57万円(正社員化コース)有期雇用から正社員への転換
人材開発支援助成金従業員スキルアップ支援訓練経費や訓練中の賃金の一部技能講習や専門教育

人材の採用と定着を促進【人材確保等支援助成金】

制度の目的
働きやすい職場環境を整備し、人材の定着・確保を図る事業主を支援します。
建設業に特化したコースがあり、業界の実情に合った支援が受けられます。

主な特徴

  • 若年者や女性が働きやすい職場づくりを支援
  • 研修制度やメンター制度の構築、表彰制度設立などが対象
  • 女性専用更衣室やトイレの整備も助成対象となる場合あり

活用例
若手社員向けに最新測量技術やCAD操作研修を実施し、その講師謝礼や教材費を助成金で補填。
従業員のスキルアップと定着率向上を同時に実現できます。

採用リスクを抑えて雇用を創出【トライアル雇用助成金】

制度の目的
職業経験や技能が少ない求職者を試験的に雇用し、3ヶ月間の試行期間を経て常用雇用への移行を促進する制度です。

主な特徴

  • 試行雇用期間中、1人あたり月額最大4万円を支給
  • 建設業では35歳未満の若者や女性を雇用する場合に加算措置あり

活用法
未経験者や異業種からの転職者を積極採用する際に活用すると効果的です。
試行期間中に適性や意欲を見極められるため、採用ミスマッチを防ぎます。
国が初期賃金コストを一部負担するため、採用ハードルを下げられます。

スキルアップと処遇改善【キャリアアップ助成金】【人材開発支援助成金】

キャリアアップ助成金

  • 非正規雇用者の正社員化や処遇改善を支援
  • 正社員化コースでは1人あたり最大57万円支給

人材開発支援助成金

  • 従業員が技能講習や専門教育を受講する際の費用を一部補助
  • 訓練中の賃金も対象

建設業での活用例
玉掛けや足場組立、車両系建設機械運転などの技能講習費用を助成金で賄い、
多能工育成や有資格者増員を進め、技術力を高めることができます。

助成金活用による採用競争力強化

厚生労働省系の助成金は、単なるコスト削減策ではなく、
自社を「従業員の成長を支援する企業」としてブランディングする手段にもなります。

求職者、特に若年層は給与だけでなく成長機会や働きがいを重視します。
そのため、「資格取得支援制度」「未経験者から正社員登用」などを具体的に打ち出せる企業は、採用市場で優位に立てます。

助成金は、こうした制度を実現するための財務的な裏付けとなり、
採用マーケティングを支える重要なツールとなります。

採択を勝ち取る申請マスタープラン【完全ガイド】

補助金や助成金の申請は複雑に見えますが、手順を理解して一つずつ進めれば難しくありません。
ここでは、申請準備から受給までの流れを具体的なアクションプランとして解説します。

ステップ1:情報収集と制度選定

申請の第一歩は、正確な情報収集です。
各制度には詳細な「公募要領」があり、これは申請のルールブックです。

行うべきこと

  • 経済産業省、厚生労働省、中小企業庁などの公式サイトを確認
  • 最新の公募要領を必ずダウンロード
  • 申請締切日を確認し、カレンダーに登録して逆算スケジュールを作成

補助金は締切延長がほぼないため、早めの行動が重要です。

ステップ2:必須ID「GビズIDプライム」の取得

現在、多くの補助金申請は電子申請システム「jGrants」で行います。
このログインに必要なのがGビズIDプライムです。

注意点

  • 取得には2〜3週間かかる場合あり
  • 郵送申請は特に時間がかかるため早めの手続きが必須

取得方法

  1. オンライン申請(推奨)
  • スマホとマイナンバーカードを使い、その場で完結
  • 最短即日で取得可能
  1. 郵送申請
  • 法人は印鑑証明書、個人事業主は印鑑登録証明書を添付して郵送
  • 書類不備に注意

補助金活用を検討しているなら、すぐに手続きを開始しましょう。

ステップ3:事業計画書の作成

採択の可否を左右する最重要書類が事業計画書です。
審査員はこの計画書だけをもとに評価を行います。

計画書に盛り込むべき要素

  • 事業者概要:自社の事業内容、強み・弱み
  • 課題と機会:現状の課題と市場のチャンスを明確化
  • 事業内容・実施計画:具体的な取り組みとスケジュール
  • 市場分析と競争優位性:競合との差別化ポイント
  • 収益計画:具体的な数値に基づいた売上・利益予測

記載例

ICT建機を1台導入することで、施工時間を20%短縮し、年間売上を500万円増加させる。

希望的観測ではなく、根拠を示すことが重要です。

ステップ4:申請と審査

GビズIDプライムを使用してjGrantsにログインし、必要書類をアップロードして申請します。
審査期間は制度や公募回によりますが、通常は数ヶ月かかります。

ステップ5:採択後の流れと注意点

補助金は後払い方式です。
採択後にすぐ資金が振り込まれるわけではありません。

流れ

  1. 自己資金または融資で設備やサービスを購入
  2. 事業完了後、実績報告書と証憑書類を提出
  3. 検査後に補助金が入金

このため、一時的に経費を全額立て替える運転資金が必要です。
資金不足が見込まれる場合は、つなぎ融資やファクタリングを検討しましょう。

実績報告のポイント

  • 計画通りに実施された証拠を提出
  • 写真、請求書、領収書、振込記録などを厳密に管理
  • 記録管理が不十分だと補助金が支給されない場合があるため注意が必要です

採択率を高めるための専門家視点

補助金・助成金の申請を成功させるには、ただ申請するだけでなく、審査員に「支援する価値がある事業だ」と納得してもらう必要があります。
ここでは、採択率を上げるための具体的なポイントを解説します。

公募要領を徹底的に読み込む

審査員は公募要領に基づいて評価を行います。
したがって、公募要領に記載された項目をすべて理解し、計画書に漏れなく反映させることが必須です。

早めに準備を始める

  • GビズID取得に2〜3週間かかる
  • 事業計画書の作成には時間が必要
  • 申請締切は延長されない場合が多い

少なくとも1ヶ月以上前から準備を開始するのが理想です。

交付決定前の購入は絶対NG

補助金対象となる経費は、原則として「交付決定通知」を受け取った日以降に契約・発注したもののみです。
それ以前の購入は対象外となるため、絶対にフライング購入を避けることが重要です。

数値で具体的に示す

「業務を効率化する」といった抽象的な表現は説得力に欠けます。
例えば、以下のように具体的な数値で表現しましょう。

〇〇システム導入により、見積もり作成時間を5時間から2時間に短縮。
月間で合計60時間の工数削減を実現。

国の政策との整合性を意識

補助金は国の政策目標達成を支援するための制度です。
自社の事業がどの政策に貢献するかを示すことで評価が高まります。

例:

  • DX推進による地域産業の活性化
  • 若年層雇用の創出で人手不足解消
  • 環境対策(グリーン化)への取り組み

専門家に相談する

  • 補助金:認定経営革新等支援機関に相談
  • 助成金:社会保険労務士が専門家

専門家は制度の最新情報を把握しており、事業計画のブラッシュアップや申請書類の不備チェックなどを行ってくれます。
費用は発生しますが、採択率向上のためには有効な投資といえます。

結論:補助金・助成金を経営戦略に組み込む

補助金は、ICT建機導入やシステム刷新など未来への投資を後押しします。
助成金は、人材採用や育成、定着など組織基盤強化を支えます。

両者をバランスよく活用することで、融資に頼らない強固な財務体質を築けます。
毎年計画的に活用し、中長期的な成長戦略に組み込みましょう。

補助金は後払いである点に注意

補助金は採択後に即時入金されるわけではありません。
まず自社資金で全額立て替え、事業完了後に報告書を提出して精算されます。

資金不足への対策例

  • つなぎ融資
  • ファクタリング
  • ビジネスローン

最後に

補助金や助成金を上手に活用することは、建設業の成長を大きく後押しします。
まずはGビズIDプライムの取得から始め、最初の一歩を踏み出しましょう。